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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)1324号 判決 1958年10月10日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人小田泰三の上告趣意について。

論旨は、本件においては、第一審判決第一事実の(一)(二)共にその効果が直接信用組合に帰属するものであり、被告人等の計算においてなされたものでないことは、事案から見ても、また原判示から見てもこれを推認し得るから、被告人等の所為が背任罪を構成することあるは格別、横領罪を構成することはあり得ないのに、これを業務上横領として処断した原判決は法令の解釈適用を誤ったものであり且つは従来の判例にも違反すると主張する。

しかし原判決の認容する第一審判決挙示の証拠によれば、判示第一(一)の事実は、被告人等が擅に組合から仮払伝票により支出せしめた金員を預金謝礼金として支払ったものであり、又第一(二)の事実は、融資を受けられる資格ある者に貸付けるものの如く手続を偽装し、貸出伝票により支出せしめた金員を被告人等が擅に第三者に高利貸付をしたものであること、即ち前者は仮払伝票により後者は貸出伝票により組合から支出を受けて、被告人等が自由に処分し得る状態に置き、これを被告人等が預金謝礼金として支払いまたは融資希望者に貸付けていたものであることが窺われるから(被告人の検察官に対する供述調書記録三六〇丁以下には「回収不能の場合は組合は責任を負わず、被告人等が責任を負うことになる」旨の供述記載もある)本件は、所論のように組合の計算においてなされた行為ではなく、被告人等の計算においてなされた行為であると認むるを相当とする。従って原判決が本件につき業務上横領罪の成立を認めたのは正当で、論旨引用の諸判例は本件に適切でなく、所論判例違反の主張は採用できない。

被告人本人の上告趣意について。

所論は、事実誤認の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。

また記録を調べても本件につき同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三九六条、一八一条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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